謎の野菊

 in 神戸 ・・ シオギクの近縁種?

兵庫県の神戸市に存在しないはずの野菊の発見!!!
  ・・・ 神戸市内の或る川の河口部
もしかして新発見の神戸固有種か?    シオギクの仲間?  新種の可能性も。    (2017年11月)
謎の野菊 謎の野菊 謎の野菊

謎というより 「なぜこんな所に?」 という不思議な野菊を神戸市の或る河川の河口部で見つけました。
花径は1.5センチほど。  葉は濃密で分厚く裏面には全面的に白い毛が蜜性。
公園など整備された場所でなく 足を踏み入れるのも難しい荒地であることから他地区からわざわざ移植されたものとは考えられず昔から 自生していたと考えるしかありません。
つぶさに観察すると ”シオギク” といわれるものの仲間と考えられます。   これは下記の限られた地域のみに自生する野菊です。

シオギク ・・ 四国南部の一部の海岸寄り
キノクニシオギク ・・ 和歌山県と三重県の南部の一部の海岸寄り 
謎の野菊 謎の野菊
写真はこれらの代表的な形態。 シオギク(左)   キノクニシオギク(右)
なお、キノクニシオギク(キイシギク)は 高知のシオギクの変種とみなされているそうです。
上記の限られた地方以外での生育は無いとされています。
いずれも砂浜ではなく岩場のような土地に生えているようです。
特徴は 頭花は筒状花(管状花) だけで 舌状花を持っていません。
つまり普通のキク科の花のような外周の花びら状のものは無く 真中の黄色い部分しか無い野菊という意味です。
(ただしごく限られた一部地区のシオギクは花弁を持つものもあるそうです。  またノジギクと交雑したために花弁を持つに至ったものもあるそうです。  これらは例外と考えるべきでしょう)


< 二つの不思議 >
(1) 上記の限られたた地域のみに自生するシオギク又はキノクニシオギクが かけ離れた神戸に何故存在するのか? というの が第一の不思議です。  シオギクと酷似していることからその近縁とみられ 外来種ではありえません。
さらに・・・
(2) 発見された神戸のものは写真にあるように総てがうすい黄色い舌状花(花びら状のもの) を持っているのです。  これは例外的なものを 除いてシオギクにはないことです。  これが第二の不思議です。

見つかったのはわずか10株ほどです。
神戸の海岸地区は明治以降は全面的に造成されここの東西10−20キロは全くの コンクリートで覆いつくされ  奇蹟的に残った土壌部分はこのあたりわずか200平米ほどです。   ですから明治以前は数多く自生 していたものが沿岸部の大幅開発によって失われ 奇蹟的に残ったこの小さな土壌部分にのみ少数が生き残って いると考えることができるのではないでしょうか。
また当地域のものの独特の変異として 舌状花(外側の花びら状のもの)を持つことになったのではないでしょうか。
近くにはノジギクも自生しており、 交雑して舌状花を持つに至ったのかもしれません。  古い時代(古代)に行われた自然な交雑で 以後は独自の形態へと進化してきたのではないでしょうか。    

形態的にも また地域的にも 高知県のシオギクと最も近いようですが・・・。
他から移植されたとは考え難く、 しかも他地域のシオギク/イソギクと微妙な形態の違いがあることから、 古い時代に原種が神戸の海岸部に流入し 以後は独特に変異しながら自生してきた可能性が濃厚です。   現在の神戸港の構造から考えると新しくても100年は昔、 おそらくは数百年数千年かそれ以上昔かもしれません。
昔から自生していたものの、誰にも気ずかれず今回初めて見つかったものとするなら  ”シオギクの神戸型変種” または ”新種” と考えても 良いのではないでしょうか。
とりあえず コウベシオギク  と仮にネーミングしておきます。

この野菊は海水直近に生え、風のある日はまともに海水を冠水する場所に平然と生きています。  高知や紀伊半島にもこれほどのものはないかもしれないと思う ほどです。

筆者はイラストレーターで野草にはアマチュアなので、 2018年秋に開花を待って専門家に鑑定を依頼する予定です。
もし遺伝子鑑定をすれば正体がよりはっきりすることでしょうが、 伝子鑑定のできる施設は極めて少ないためそこまで することはないでしょう。  高知/和歌山のものは染色体数は 72(2n=72) と分かっておりその近縁種なので同じはずです。

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その他 今わかっていることなどを下に記します。

イソギクとは ↓

イソギク
<註1>  関東から静岡地区の一部の海岸寄りに自生する ”イソギク” という野菊があります。  四国・和歌山のシオギクが潮流に 野って東に移動し変異してイソギクとなったようです。  
イソギクの染色体数は 90(2n=90)、 シオギクは 72(2n=72) と違いがあるため現在では別種扱いされています。
シオギク類の花径が 8-10ミリほどなのに対しイソギクは僅か5ミリほどとかなり小粒の花となります。
(なおこのイソギクにつては花径が1−1.5センチのものもあるといわれていますが園芸種ではないでしょうか。  また 園芸種としてはイエギクと交雑させた ハナイソギク というものがあり花弁を持つそうです)
このイソギクは園芸用に各地に移植されており  神戸にも移植されたものが ”舞子公園” でかなり見かけます。  このたび発見されたもの とは近縁なので写真の上では良く似ていますが舞子公園のものは花径は5ミリほどと大きさが全く違い また花弁も無く  今回発見されたものとは直接的な関連は全く認められません。 

イソギクは分布範囲が広く 園芸種も各地にあるので広く知られています。  シオギクは希少であるためか知る人は少ないようです。

<註>  和歌山県のキノクニシオギクというものが地域的に最も近いといえます。   舌状花が無いことを除外すると黄色い 筒状花のサイズ 8-10ミリ ほどで神戸のものと似ていますが葉の形状に微妙な違いがあります。
なおこのキノクニシオギクの染色体数は 72 で高知のシオギクと同じなのでシオギクの変種とされているそうです。  しかし近年 伊勢半島東部で染色体数が  90 と関東のシオギクと同数のものも発見されたそうです。   どうやら紀伊半島で変異してから関東へ流れてイソギクとなったようです。

<註>  四国南部のシオギクは舌状花の有無を除くと黄色い管状花のサイズ 8−10ミリほどと似ており、 また葉の形状も似て いるので神戸のものと最も近いかもしれません。   太古に大阪湾に流入し、神戸沿岸に流れ着いたのでしょうか。
神戸以外の兵庫県の他の地域での発見は無いようです。  大阪府での発見例も報告されていません。
神戸市だけが飛び離れた自生点です。

なおこのシオギクは室戸岬あたりに白い舌状花を持つものがあり 人の手によって植えられたノジギクと交雑したものとされ 人為的な遺伝子汚染として 懸念されているそうです。

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草花にあまり詳しくない方のために語句に分かりやすい注釈をいれました。

舌状花とは ・・・ 花びら状のもの。 キク科の花の外側に花びら状に先端が片方に大きく伸びて広がったものが多数 円を形成するように集まっている。   花びらと 見えるもおのの実際には一つ一つが花です。   ほとんどのキク科は大きくて見事な舌状花を持ち 数やサイズや色はさまざまあって 美しさを競っています。

筒状花(管状花)とは  ・・・ 真中の黄色い部分。 筒状をした多くの小さな花が中心部に集中している。 小さいけれども一つ一つが花である。  殆んどが 濃い黄色。  シオギク/イソギクの他にアザミも筒状花のみです。

頭花とは  ・・・  キク科で上記のような小さい花(小花という) が多数集まって一つの花と見える全体のこと。  頭状花序 という語句の略。

キク科について ・・・ 地球上で最新で最も進化した植物群。  それだけに現在もかなりなスピードで進化や変異を遂げつつあります。


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その後
2017年11−12月。  神戸のその他の川の河口部を含め海沿い地区をほぼ全域を調査してみましたが 須磨区の砂浜地区を除き 全面的に人工的に埋め立てなどでコンクリートで造成され 昔の 植生を残した場所は全く残されていませんでした。   須磨の砂浜でさえ海水浴場のため人工的に変えられていました。  
したがって上記記事のもの以外にこの謎の野菊は見つかりませんでした。

上記の謎の野菊の発見場所は奇蹟的に開発から見逃され ”昔の神戸沿岸部の植生を残したただ一か所” の貴重な場所ということになります。
ここから東方数キロほどは明治以前には ”みぬめの浜 (敏馬の浜)” と言われ須磨の海岸以上の景勝地だったそうです。  万葉集の歌人 (大伴旅人や額田女王など)が和歌を残しているほどです。  現在は完全に破壊されていますが その惨めな生き残りの狭い土地がここなのです。 

神戸の海岸地区が全面的に開発される以前の明治大正頃 もしくはもっと昔に何らかの事情で移植された可能性はゼロとは言えませんが さまざまな状況 からみて
もともと太古から神戸に自生していたものの生き残りではないか   という可能性が濃厚です。
もしそうなら神戸固有の野菊ということになり貴重なものになり 新種の可能性もあるかもしれません。

なお当地区は ”ノジギクの自生地としても貴重” な場所です。

↑  風のある日は海水をかぶりそうな場所に自生するノジギク。
神戸市の南岸地区はほぼ100パーセントが人工化されており もともとは海岸部 の野菊であったノジギクですが 現在は海岸に自生しているものははここだけになってしまっているのです。  つまり
ノジギクの自生地は多くありますが 最も本来の自生点は神戸ではここだけとも言えるのです。
また播州姫路地区のノジギク(セトノジギク)の場合も海岸直近のものは開発によってほとんどが失われています。  

当場所は詳細に探せば 他の失われつつある貴重植物も見つかるかもしません。 
懸念されるのは外来種のセイタカアワダチソウが非常な勢いで増えつつあることで 駆除の必要があります。
この場所の重要性については神戸市の港湾関係部局へ報告を入れるべきと思います。

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筆者の本業はイラストレーターです。